経験豊富なデザイナーや専門性の高いデザイナーは、デザイン組織の中でよりクオリティの高いデザイン制作や、若手デザイナーのフィードバックや修正に当たることがあります。
こうした役割を持つデザイナーを「シニアデザイナー」と呼びます。
この記事では、シニアデザイナーの役割や採用方法、リードデザイナーやデザインリードとの違いについて解説します。
シニアデザイナーとは
シニアデザイナーとは、デザイン組織のなかでより専門性が高く、リーダー的な役割を持つデザイナーのことを指します。
『デザイン組織のつくりかた』(ピーター・メルホルツら著、2017年)によると、シニアデザイナーをはじめとするリーダー的な役割を持つデザイナーの実績や業務範囲、スキルを次のように定めています。
テーマ | 実行者から、仕事をビジネスの文脈で理解できるリーダーになる |
実績 | 5〜10年程度の経験。多くのローンチ済みのプロジェクトに貢献。 |
範囲 | プロダクトの領域全体のソリューションを導き出す |
人となり | 任されたチームの統率、他部門との連携 |
コアスキル | 1つのスキルのエキスパート。他に2つのスキルを得意とし、2つに対応可能 |
ソフトスキル | ファシリテーション、人の話を聞く |
リーダーシップスキル | 戦略、共感、配慮 |
引用:『デザイン組織のつくりかた』「7|チームの育成:専門能力の向上と人材マネジメント」
シニアデザイナーという役職や肩書を持っていない組織であっても、一定数のデザイナーを抱えるチームであれば、スキルや経験が豊富なデザイナーに対して、自然とこのような役割を求められるのではないでしょうか。
ただ、こうした「シニアデザイナー」をあえて採用したいと考える場合、上記のスキルを参考にしたうえで、企業・組織に必要なシニアデザイナー像を明らかにしていくことが重要です。
シニアデザイナーに求められる役割
シニアデザイナーに求められる役割は、主に次の3点が挙げられます。
- ジュニアデザイナー(後進)をはじめとするメンバー、チームの育成
- ジュニアデザイナーがデザインした制作物へのフィードバックや修正
- よりクオリティの高いデザイン制作
ただし、デザインのトンマナを決めるのは、後に解説するリードデザイナー・デザインリード・アートディレクターの役割とされることが多くなっています。
デザイナーのキャリアパスの選択肢の一つ
前述したように、具体的な役職名が付いていなかったとしても、一定数のデザイナーを持つ組織ならば、後進に教えたり、クリエイティブの責任を担ったりすることは自然発生的に現れる役割です。
現在はデザイナーに求められる役割が多様化しており、キャリアパスの選択肢の一つとしてあえて「シニアデザイナー」という役職を設ける組織も増えています。
最初は、ジュニアデザイナー・アシスタントデザイナーという立場でキャリアをスタートし、徐々にスキルアップしていく過程でシニアデザイナーとなります。
またシニアデザイナーは後進を育成する立場とはいえ、プレイヤーでもあり、デザイナーのスペシャリストも目指し、よりレベルの高いデザイン制作を手掛けます。
その後のキャリアパスとしては、リードデザイナーやアートディレクターになる人もいれば、シニアデザイナーのポジションにとどまる人もいます。
関連記事:デザイナーのキャリアパス9選|市場価値が高い職種やスキルも解説
シニアデザイナーの組織内での役割
では、同じように専門性が高く、リーダーの役割を持つデザイナーのポジションとシニアデザイナーはどう違うのでしょうか。
次の3つのポジションのデザイナーとの違いを明らかにしたうえで、よりシニアデザイナーの役割を明確にしていきましょう。
- リードデザイナー
- デザインリード
- アートディレクター
リードデザイナーとの違い
リードデザイナーは、シニアデザイナーより高い専門性を持ち、マネジメントなど広い領域で中長期的なビジョンを持つ役割を担います。
前述した『デザイン組織のつくりかた』によると、リードデザイナーの実績や範囲、スキルなどは次のようになっています。
テーマ | 文脈を設定し、戦略を立てる |
実績 | 10〜15年ほどの経験。「プロダクト領域」で質の高い制作物を提供してきた |
範囲 | 未定義の問題領域のソリューションを導き出す |
人となり | 必要なチームの結成。他の部門のリーダーと課題を定義付ける |
コアスキル | 1つのスキルのエキスパート。他に2つのスキルを得意とし、2つに対応可能 |
ソフトスキル | 信頼と自信 |
リーダーシップスキル | 計画作成、指導力 |
引用:『デザイン組織のつくりかた』「7|チームの育成:専門能力の向上と人材マネジメント」
共通する箇所もありますが、より高いレベルでの実績経験やスキル、広い視野でのリーダーとしての役割が求められます。
関連記事:【企業向け】リードデザイナーとは?その仕事内容や探し方を解説
【企業向け】シニアデザイナーとリードデザイナーの違いとは?比較解説
デザインリードとの違い
デザインリードは、比較的新しいポジションです。そのため、明確な定義づけは難しいですが、シニアデザイナーとリードデザイナーの間に立ち、マネジメントや制作などをバランスよく担っていることが多いと言えます。
ただし、デザインリードという名前でポジションを設けるかどうかは組織や業務内容にもよるため、役職名にこだわりすぎる必要はないでしょう。
関連記事:【企業向け】デザインリードとは?役割や採用方法をご紹介
アートディレクターとの違い
アートディレクターは、リードデザイナーやデザインリードよりもさらにマネジメントの役割が濃くなります。
アートディレクターは、デザインの制作過程において、ビジュアルなどに携わりつつ、制作物が確実に納品されるよう、スケジュール管理を行い、進行を円滑にしながら、クオリティを担保していきます。
アートディレクターもまた、デザイナーのキャリアパスの一つですが、プレイヤーよりはマネージャーに近いポジションです。プレイヤーとして業務を担うシニアデザイナーとはその点で立ち位置が大きく異なります。
関連記事:Webデザインにおけるアートディレクターとは?デザイナーとの違いや仕事内容、必要なスキルを解説
デザイナーとアートディレクターの違いとは?どちらを採用すべきか比較解説
シニアデザイナーの採用事例
シニアデザイナーのキャリアパスは、次のようなパターンがあります。
- デザイナーとしてキャリアを積む
- 組織内でキャリアアップする
- キャリアを積んだ後、シニアデザイナーとして採用される
実際にシニアデザイナーとして活動する事例を紹介します。
組織内でキャリアアップした事例
1つ目として紹介するのは、組織内でキャリアアップしてシニアデザイナーとして活躍する事例です。
キャリアパスとしては、デザインプロダクションを経て、事業会社のデザイナーに転職したというもの。
前職ではクライアントワークが中心でしたが、現職では事業会社として事業にかかわるインハウスデザインを手掛けています。業務内容は、若手デザイナーへのフィードバックとともに、要件整理やブランディングデザインなどです。
転職によるキャリアアップの事例
2人目に紹介するのは、転職してシニアデザイナーになった事例です。
キャリアパスとしては、デザイン事務所、フリーランスデザイナー、大手IT企業の営業などを経て、ブランディングを主要事業とする会社のシニアデザイナーになりました。
仕事内容としては、クライアントワークが中心で、グラフィックデザイン、Webデザイン、映像、UIデザイン、空間演出などを手掛けています。具体的には、コーポレートサイトの改修などをプロジェクトチームで協同で行うことなどがあります。
参考:Bulanco
業務委託の即戦力デザイナーとしてアサインした事例
デザイナーを社内で初めて採用するスタートアップ企業などでは、即戦力のデザイナーを求めており、外部から業務委託としてシニアデザイナーを採用する事例もあります。
2009年に創業したFinTech企業MFSでは、事業成長に伴い、メインで稼働するデザイナーと、デザインのクオリティ担保とマネジメントを補足するかたちでシニアデザイナーの計二人を採用。
自社との相性は良いが、クオリティ面での若干不安があるデザイナーと契約する際、シニアデザイナーにも入ってもらうことで、円滑なプロジェクト進行が可能になっています。
参考:「即戦力デザイナーの採用が急務だった」クロスデザイナー契約後1週間で2名採用したMFS様の事例
このように、即戦力のデザイナーを求める企業では、目的・社内の状況に合わせて業務委託で中堅以上のデザイナーを採用することも可能です。
シニアデザイナーに求められるスキル・能力
シニアデザイナーに求められるスキル・能力は次の3つが挙げられます。
- スペシャリストとしてのデザイン力
- 後進を育成する力
- マネジメント側と連携する力
スペシャリストとしてのデザイン力
まず、デザインの専門性が求められます。
デザイナーのクオリティやレベルは、制作物を見れば一目でそのスキルがわかるでしょう。
ポートフォリオを確認することで、どの程度のスキルを持つデザイナーなのか、シニアデザイナーに必要なスキルを持っているかどうかが確認できます。
後進を育成する力
シニアデザイナーは、自身が高い専門性を持つだけでなく、後進を育成することも求められます。
チーム内の後進を指導・育成するうえで、デザインの言語化が必要となってきます。
なぜこのデザインなのか、なぜこのカラー・フォントなのかを説明し、後進がデザインの修正に対して納得して進められるようにしましょう。
マネジメント側と連携する力
シニアデザイナーはマネジメント側と連携することも求められます。
自身がプレイヤーのスペシャリストとして活動する一方で、プロジェクトの意味や戦略、方向性を理解することが重要です。戦略によっては、デザインの方向性や内容変更の提案をすることもあるでしょう。
シニアデザイナーの評価方法
組織内でシニアデザイナーのポジションを与える場合、きちんと評価することも重要です。その際、次の2つの項目を確認しましょう。
- デザイナーとしての専門性
- コミュニケーションスキル
デザイナーとしての専門性
デザイナーとしての専門性をどの程度兼ね備えているかをしっかり評価しましょう。
先述の『デザイン組織のつくりかた』では、デザイナーのレベルの枠組みとして次の5つに分けています。
- デザインのプロになる
- 頼りになる貢献者
- 実行者からリーダーへステップアップ
- 主導権をとる
- 完璧なデザイン組織のリーダー
この中では、シニアデザイナーは「3. 実行者からリーダーへステップアップ」のレベルにあります。
WebやUI/UXなどデザイナーの業種によって各スキルは異なりますが、業種に応じた専門的スキルのうち1つはエキスパートのレベルであることが求められます。
コミュニケーションスキル
コミュニケーションスキルは、チームで仕事をしたり、クライアントワークを手掛けたりするうえで、非常に重要です。
シニアデザイナーはクリエイティブに対して責任を担う役割も持っており、プロジェクトの戦略や意味を理解し、デザインにしっかり落とし込んでいくことが求められます。
クライアントやマネージャーとデザイン制作の意味を共有し、チーム内にその意味を浸透させていくために必要に応じてデザインの言語化や、円滑なコミュニケーションができないとプロジェクトが滞ってしまいます。
シニアデザイナーとしてコミュニケーションスキルを満たしているかどうかしっかり評価しましょう。
関連記事:デザイナー評価項目・方法は?定性的になりがちな人事制度の見直し方
シニアデザイナーの採用基準3つ
では、シニアデザイナーをもし採用する場合、どんな基準を設けると良いでしょうか。
次の3点を意識しましょう。
- デザインのスキル
- デザインの提案力
- デザインの言語化能力
デザインのスキル
デザインのスキルとして、まず一定の実務経験が必要です。
求める業種のデザイナー経験は5年以上、そのほか業務内容に応じて、ディレクション経験やチームのマネジメント経験を採用基準として挙げるといいでしょう。
一定の実務経験を持つデザイナーに応募してもらい、ポートフォリオで実際のスキルを確認します。
デザインの提案力
また、デザインの提案力も重要です。
デザインでプロジェクトの解決策を提案できるかどうかが、デザインのチームリーダーとして求められます。
ポートフォリオで制作物の提案理由を確認する、あるいは応募の際に、実際にデザイン制作を提出してもらうなどしてそのスキルを確認しましょう。
デザインの言語化能力
デザインの言語化もチームのリーダーとして重要なスキルです。
デザインに至る経緯を論理的に説明できるかどうかは、クライアント・マネージャー・チームのどの立場に対しても求められるため、業務内容に応じてできるかどうかを確認しましょう。
シニアデザイナーの採用方法
シニアデザイナーの採用方法は、次の2つがあります。
- 社員として採用する
- フリーランスとして契約する(業務委託)
社員として採用する
まず、社員として採用する方法があります。
事業としてインハウスデザイナーが必要な場合、あるいはクライアントワークを担う企業が一定量のデザインリソースを確保したい場合に社員として採用します。
長期的な視点で若手デザイナーの育成や組織力の向上に貢献してくれるかどうかを確認しましょう。
フリーランスとして契約する(業務委託)
フリーランスと契約する場合もあります。
急ぎで即戦力デザイナーを求めている場合、あるいは短期的にデザイナーが必要な場合などには、業務委託契約の形を取ることもおすすめです。
また、業務委託契約で加わった後でも、双方が合意した場合は社員として採用することもできます。
フリーランスとして契約する場合、社員として採用した場合の早期離職やミスマッチのリスクを避けられることもメリットです。
シニアデザイナーをお探しならクロスデザイナーがおすすめ
本記事では、シニアデザイナーの役割や採用事例、採用の基準などをご紹介してきました。
シニアデザイナーは、スペシャリストであり、プレーヤーとしてはもちろん、デザインの本質も理解した中堅以上のデザイナーです。そのため、チームの育成・指導やマネジメント、デザインのクオリティ管理のスキルも持っています。
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