準委任契約において、業務委託についてのルールの理解不足により指揮命令を行い、違法な偽装請負と判断されて罰則が課せられる事例が多く発生しています。
そこで本記事では、準委任契約と請負・委任・派遣の違い、偽装請負と判断される基準や具体的なケースについて解説します。
準委任契約の指揮命令の考え方や、偽装請負とみなされないためにどうすれば良いか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
準委任契約とは
準委任契約は業務委託契約の一種で、発注者(委託者)から依頼された特定の業務を、受注者(受託者)が遂行することを目的とした契約形態です。成果物の有無にかかわらず、業務の遂行に対して工数などに応じて報酬を支払います。
準委任契約のメリットとデメリット
準委任契約にはさまざまなメリットとデメリットがあります。表にまとめると以下のようになります。
メリット | デメリット |
---|---|
・継続的に業務を依頼できる ・依頼内容を柔軟に変更できる ・スキルの高いプロに依頼できる | ・社内にノウハウが蓄積しにくい ・成果物のクオリティに関わらず報酬を支払わなければならない |
同じ部署で働くのは3年までという「3年ルール」が存在する派遣契約とは異なり、準委任契約では双方の合意があれば継続的に依頼でき、請負契約より依頼内容を柔軟に変更できる点が魅力です。また、準委任契約でスキルの高いプロに依頼することで、従業員が専門分野に精通していなくてもカバーできるでしょう。
ただし、成果物のクオリティに関わらず業務の遂行に対して報酬を支払う必要があり、社内にノウハウが蓄積しにくい点がデメリットです。
準委任契約には2種類ある
準委任契約には履行割合型と成果完成型の2種類があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
契約形態 | 履行割合型 | 成果完成型 |
---|---|---|
特徴 | ・依頼された業務を行った工数などに応じて報酬が支払われる | ・成果物の納品に対して報酬が支払われる |
報酬の支払いタイミング | ・業務を履行した後 | ・成果の引渡しと同時 |
業務の履行や成果物の納品ができなくなった場合の報酬請求 | ・受注者(受託者)の責任の有無にかかわらず、すでに履行した業務の割合に応じて報酬を請求できる | ・成果が分割可能で、完成した部分によって発注者(委託者)が受ける利益の割合に応じた報酬を請求できる |
準委任契約でも履行割合型と成果完成型では、報酬の対価や支払いタイミング、業務の履行や成果物の納品ができなくなった場合の報酬請求などに違いがあります。
その他、別の契約形態との比較など、より詳細な内容については以下の資料で解説しています。
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準委任契約における指揮命令
準委任契約では、民法上、善管注意義務が発生するため、発注者(委託者)は委任した業務が適切に行われているか、進捗を確認することできます。
善管注意義務とは、「善良な管理者の注意義務」の略で、受注者(受託者)はその職業や社会的・経済的地位において一般的に期待される水準で業務を遂行し、プロとして注意を払う義務が発生するというものです。
しかし、準委任契約では発注者(委託者)に業務上の指示を行うと指揮命令にあたり、違法行為と判断される場合があります。
では、指揮命令とは何か、契約形態によって指揮命令関係はどのように異なるのか、詳しく見ていきましょう。
基本的に指揮命令は不可
実務では広く業務委託契約という名称が使用されていますが、民法上は、請負契約・委任契約・準委任契約の3つに分類されます。契約類型によって目的や報酬、義務などは異なるものの、いずれの場合も発注者(委託者)に指揮命令権は生じません。
労働法では、労働者の労働義務の遂行について使用者が有する指揮命令の権限は、労務指揮権と称されます。また、就業規則などで規定されており、企業と従業員の間で合意がとれている内容に関わる指揮命令は、業務命令権の範囲になります。つまり、労働契約や就業規則の内容を実現するために、企業が従業員に対して行う指示などが指揮命令であり、労働契約によって生じる権限なのです。
そのため、発注者(委託者)と受注者(受託者)の間に雇用関係がない業務委託契約では、発注者(委託者)に指揮命令は認められていません。受注者(受託者)が自身の裁量と責任で業務を遂行することを前提とした契約のため、業務の進め方や働き方に関する指示は指揮命令にあたり、法律に違反してしまう可能性があります。
ただし、発注者(委託者)から依頼された業務の遂行上、受注者(受託者)が雇用関係にある労働者に対して指揮命令を行うことは問題ありません。これを再委託と言いますが、準委任契約の場合は、契約で許容されている場合を除いて、原則として再委託は認められていないため注意しましょう。
雇用契約・派遣契約における指揮命令
偽装請負が起こる理由は、業務委託と他の契約形態における指揮命令の違いを明確に理解していないケースがほとんどです。
では他の契約形態では指揮命令関係はどのようになっているのでしょうか。直接雇用と派遣契約の場合は以下のようになっています。
【直接雇用の場合】
(正社員・契約社員・アルバイト)
前述の通り、正社員・契約社員・アルバイトといった直接雇用の場合は、企業と従業員が雇用関係にあるため、指揮命令関係が生じます。
【派遣契約の場合】
派遣契約では、労働者派遣法により、派遣先企業が指揮命令者を設置する必要があり、派遣社員への指示を行います。
ここで注意すべきポイントは、発注者(委託者)と受注者(受託者)との間に指揮命令関係があると、書類上は業務委託契約でも、労働者の派遣に該当するという点です。指揮命令は業務委託契約では認められないため、労働者派遣法に違反する偽装請負とみなされます。
次章から、偽装請負について詳しく解説していきます。
参考:厚生労働省「労働者派遣を行う際の主なポイント」厚生労働省 石川労働局「労働者派遣事業とは」
関連記事:業務委託とは?簡単に、ほかの契約との違いやメリット・デメリットを解説
【企業向け】派遣と業務委託の違いは? 契約時のメリット・デメリットをそれぞれ解説
偽装請負とは
発注者(委託者)と受注者(受託者)との間に指揮命令関係があり、偽装請負に該当するか否かは、書類上の契約形態ではなく、厚生労働省の基準に基づいて、以下のような労働の実態により判断されます。
- 実態として、労働者派遣事業であると判断されるもの
- 形式的には請負業者と雇用契約がない個人事業主に再委託されている場合であっても、実態から労働基準法上の労働者であると判断されるなど、契約と不一致があるもの
- 契約の名称に関わらず、その実態から労働者性があると認められる場合
この労働者性については、主に以下の点を基準に判断されます。
- 労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか
- 報酬が指揮監督下における労働の対価として支払われているか
このように業務委託契約を結んでいるにもかからず、指揮命令下にあるような労働実態の場合、委託者の責任が曖昧になり、労働者の雇用や安全衛生面など基本的な労働条件が十分に確保されないという問題が起こりやすくになります。そのため偽装請負は違法とされ、厳しく禁じられているのです。
出典:厚生労働省・都道府県労働局「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」
偽装請負の判断基準
業務委託(請負・委任・準委任)と労働者派遣のいずれに該当するかは、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」に条件が記載されていますのでご確認ください。
東京労働局によると、偽装請負の代表的なパターンは以下の4つです。自社で行われている契約で当てはまるものはないか確認してみましょう。
代表型 | 請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりしています。偽装請負によく見られるパターンです。 |
形式だけ責任者型 | 現場には形式的に責任者を置いていますが、その責任者は、発注者の指示を個々の労働者に伝えるだけで、発注者が指示をしているのと実態は同じです。単純な業務に多いパターンです。 |
使用者不明型 | 業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bは別の業者Cに請けた仕事をそのまま出します。Cに雇用されている労働者がAの現場に行って、AやBの指示によって仕事をします。一体誰に雇われているのかよく分からないというパターンです。 |
一人請負型 | 発注者と受託者の関係を請負契約と偽装した上、更に受託者と労働者の雇用契約も個人事業主という請負契約で偽装し、実態としては、発注者の指示を受けて働いているというパターンです。 |
引用:東京労働局「あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ?」
関連記事:業務委託契約を締結する際に起こりがちなトラブル事例6つと対処法を解説
偽装請負とみなされるケースQ&A
ここで、業務委託(請負・委任・準委任)と労働者派遣の区分について、どのようなケースが偽装請負とみなされるか、厚生労働省の資料を基に指揮命令に関するものをQ&A形式でご紹介します。
Q1. | 受注者(受託者)からの納品物に欠陥製品が発生したことから、発注者(委託者)が作業工程を確認したところ、欠陥商品の原因が作業工程にあることがわかりました。 発注者(委託者)が作業工程の見直しや欠陥商品の製作し直すことを要求した場合は、偽装請負となりますか。 |
A1. | 作業工程の見直しや欠陥商品を製作し直すことなど、発注に関わる要求や注文は、直接の指揮命令ではないので労働者派遣には該当せず、偽装請負にはあたりません。 ただし、作業工程の変更や欠陥商品の再製作を指示した場合は、直接の指揮命令に該当することから偽装請負と判断されます。 |
Q2. | 受注者(受託者)に依頼した業務の作業工程に関して、発注者(委託者)が仕事の順序を指示したり、請負労働者の配置を決定したりしてもよいですか。 また、発注者(委託者)が作成した作業指示書を受注者(受託者)に渡して、そのとおりに作業を行わせてもよいですか。 |
A2. | 適切な請負と判断されるためには、業務の遂行に関する指示や管理を受注者(受託者)が自ら行っていること、自己の業務として発注者(委託者)から独立して履行することなどが必要です。 したがって、発注者(委託者)が業務の作業工程に関して、仕事の順序や方法を指示したり、請負労働者の配置や仕事の割付などを決定したりする場合、受注者(受託者)が自ら業務の遂行に関する指示や管理を行っていないため、偽装請負と判断されます。 また、口頭に限らず、発注者(委託者)が業務の内容、順序、方法などを文書化し、そのとおりに受注者(受託者)が作業を行っている場合も、偽装請負と判断されます。 |
Q3. | 発注者(委託者)の打ち合わせ会議や、事業所の朝礼に、受注者(受託者)の管理責任者だけでなく請負労働者も出席した場合、労働者派遣事業となりますか。 |
A3. | 発注者(委託者)と受注者(受託者)の間で行われる打ち合わせなどに、管理責任者だけではなく請負労働者が同席しただけでは、労働者派遣事業と判断されることはありません。 ただし、打ち合わせなどの場で、発注者(委託者)が作業順序や従業員への割振りなどを指示したり、作業方針の変更を日常的に指示したりして、受注者(受託者)自らが業務の遂行方法に関する指示を行っていると認められない場合は、偽装請負と判断されます。 |
Q4. | 発注者(委託者)からの依頼メールを受注者(受託者)の管理責任者に送付する際、管理責任者の了解のもと、請負労働者にも併せて(ccで)送付した場合、労働者派遣事業となりますか。 |
A4. | 依頼メールを受注者(受託者)の管理責任者の了解のもと、請負労働者に併せて送付しただけでは、労働者派遣事業と判断されることはありません。 ただし、発注者(委託者)が送付するメールの内容が、実質的に作業の順序や従業員への割振りなどの指示であったり、作業方針の変更を日常的に指示したり、請負労働者に直接返信を求めていたりして、受注者(受託者)自らが業務の遂行方法に関する指示を行っていると認められない場合は、偽装請負と判断されます。 |
出典:厚生労働省・都道府県労働局「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」
偽装請負とみなされた場合のリスク
偽装請負とみなされた場合は、発注者(委託者)と受注者(受託者)の双方に罰則を受けるリスクがあります。関係する以下の3つの法律と罰則について解説します。
- 労働基準法
- 労働者派遣法
- 職業安定法
1.労働基準法
労働基準法では、他人の就業に介入して利益を得る中間搾取が禁止されています。請負を装った労働者供給や労働者派遣がおこなわれた場合、受注者(受託者)による中間搾取となるケースがあり、発注者(委託者)も中間搾取に手を貸したとして、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金(第118条)」が科される可能性があります。
2.労働者派遣法
労働者派遣法では、偽装請負と判断された場合、発注者(委託者)と受注者(受託者)は、許可を受けずに労働者派遣事業を行なったとみなされ、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第59条2号)」が科される可能性があります。また、発注者(委託者)は行政指導・改善命令・是正措置勧告を受け、従わない場合に公表されるリスクがあります。
3.職業安定法
職業安定法では、労働者供給事業の許可を受けずに、労働者供給事業を行なうことや供給される労働者を指揮命令下で労働させることを禁止しています。
偽装請負の実態が違法な労働者供給事業とみなされた場合は、発注者(委託者)と受注者(受託者)の双方に「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第64条10号)」が科される可能性があります。
準委任契約で偽装請負を回避するための注意点と対策
準委任契約を行うにあたって、労働者派遣事業にならないためにはどのような点に注意したらよいのでしょうか?
ここからは、偽装請負と判断されないための対策を4つご紹介します。以下のポイントに留意して、準委任契約を適切に活用しましょう。
- 準委任契約の特徴や禁止事項を理解する
- 契約書は重要項目をもれなく記載する
- 労働の実態が契約内容と相違ないよう注意する
- エージェントサービスを活用する
1.準委任契約の特徴や禁止事項を理解する
準委任契約の特徴と禁止事項を確認し、直接雇用や派遣契約との違いを把握しておきましょう。準委任契約は、業務の遂行に対して報酬を支払う契約形態であり、受注者(受託者)は仕事を完成する義務を負いません。また、雇用関係にないため発注者(委託者)に指揮命令権が発生せず、業務の進め方や働き方などに関する指示はできません。
2.契約書は重要項目をもれなく記載する
以下の重要項目をもれなく記載し、法律を遵守した正しい契約書を作成しましょう。特に業務内容を明確化することが重要です。抽象的に表記すると、実際に作業する際に発注者(委託者)から指揮命令にあたる指示をしてしまい、偽装請負と判断される可能性があります。
- 業務内容
- 報酬額
- 支払い条件、支払い時期、支払い方法など
- 成果物の権利
- 再委託の可否
- 秘密保持に関する条項
- 反社会的勢力の排除
- 禁止事項の詳細
- 契約解除の条件
- 損害賠償について
- 契約期間について
- 所轄の裁判所について
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3.労働の実態が契約内容と相違ないよう注意する
業務内容や支払い条件、指揮命令の有無といった契約内容と、労働実態が一致していることが重要です。また、指揮命令にあたる指示を行い偽装請負にならないよう、発注者(委託者)側は業務に関わる関係者に、受注者(受託者)の契約内容や注意事項などを周知しておきましょう。
4.エージェントサービスを活用する
エージェントサービスを活用することで、準委任型の業務委託契約に関するサポートを受けることができます。また、偽装請負を回避するための具体的なアドバイスやガイドラインを提供してくれる場合もあります。
デザイナーの代表的なエージェントサービス3つ
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本記事では、準委任契約と請負・委任・派遣の違い、業務委託契約のルールや契約形態別の指揮命令関係などを詳細に解説しました。偽装請負と判断される基準や具体的なケースもご紹介しているので、自社の契約内容と労働実態を確認してみてください。
また、準委任契約で偽装請負を回避するためには、「準委任契約の特徴や禁止事項を理解する」ほか、「契約書は重要項目をもれなく記載する」「労働の実態が契約内容と相違ないよう注意する」「エージェントサービスを活用する」といった注意点や対策が挙げられます。
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