業務委託契約で働くフリーランスにとって、報酬未払いは深刻な問題です。
本記事では、業務委託契約で報酬未払いに遭った場合の対処法と予防策について、具体的な方法やポイントを紹介します。
報酬未払いに遭いどうすれば良いか悩んでいる方や、これからフリーランスとして働くことを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
フリーランスのトラブルで最も多い「報酬の支払い」
「フリーランス・トラブル110番」の調査によると、令和5年4月から6月に寄せられた相談件数は3,899件で、「報酬の支払い」に関する相談内容が最も多く、28.1%と全体の約3割を占めています。
その内訳を見ると、「報酬の全額不払い」が最多で11.0%、次いで「支払遅延」が6.9%、「一方的減額」が6.8%の順に多くなっています。
また、令和3年の内閣官房ほか政府による実態調査では、フリーランスの約4割が報酬不払いや支払遅延などのトラブルを経験していることがわかっています。また、フリーランスの約4割が記載の不十分な発注書しか受け取っていないか、そもそも発注書を受領していないことも明らかになりました。
出典:内閣官房新しい資本主義実現本部事務局・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」
フリーランス新法の「報酬支払い義務」を理解しておこう
このようなフリーランスの労働環境を改善し、安心して働くことができるようにするために、フリーランス新法が令和5年5月12日に公布され、公布日から1年6ヵ月以内に施行されることになっています。
フリーランス新法は、正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」といい、以下のような規制が設けられています。
- 取引条件の明示義務
- 正確な募集内容の明示義務
- 期日における報酬支払義務
- ハラスメント防止措置義務
- 妊娠・出産・育児介護への配慮義務
これらの規制は、フリーランスと企業との取引における企業側の行為を規制し、フリーランスの権利を保護することを目的としています。
このうちの「期日における報酬支払義務」とは、企業は検収を行うかどうかを問わず、発注した成果物が納品された日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定めて、それまでにフリーランスへ支払わなければならないというものです。支払期日を定めなかった場合などには、次のように支払期日が定められます。
- 当事者間で支払期日を定めなかったときは、成果物が実際に納品された日
- 成果物が納品された日から起算して60日を超えて定めたときは、納品日から起算して60日を経過した日の前日
これは報酬不払いや支払いの遅延を防ぎ、フリーランスに関わる取引の適正化を図るためのものです。自身を守るためにも、新法の内容を理解しておきましょう。
関連記事:フリーランス新法とは? 下請法との違い、いつから施行かを解説【弁護士監修】
業務委託報酬の未払いに遭った場合の対処法3ステップ
フリーランスとして働く場合、業務委託報酬の未払いが発生すると、収入が減るだけでなく回収に時間や労力を費やすことになるでしょう。可能な限り穏便に早期解決するために、まずは次の3つのステップで対処することをおすすめします。
- 契約内容を確認する
- 支払いを催促する
- 督促状を送る
それぞれ詳しく説明します。
1.契約内容を確認する
まずは、業務委託契約書で、報酬の支払い時期や方法、遅延利息、違約金などの条項を確認します。支払いを催促する際に、報酬を請求する根拠と、クライアントの支払い義務を提示するために必要です。契約書がない場合は、メールやチャットなどで報酬に関するやり取りを証拠として保存しておきましょう。
2.支払いを催促する
次に、支払い期限を具体的に設定して、メールやチャットなど通常の連絡方法で催促します。電話の場合は、感情的にならず、事実を冷静に伝えるように努めましょう。また、話した内容を文書化してクライアントにメールなどで送付し、記録に残すことが重要です。
3.督促状を送る
任意的手段による催促を行っても効果がなかった場合は、督促状を送付します。クライアントに対して法的手段をとることの警告となり、正式な債権回収の通知書は任意的手段より強く支払いを促すことができます。このとき、督促状を送った事実を公的に証明するため、内容証明郵便で送付することが重要です。
未払いの報酬を回収するための法的手段4つ
通常の連絡方法で支払いを督促し、内容証明郵便で督促状を送付しても、クライアントが支払わない場合に検討すべき法的手続は以下の4つです。
- 支払督促
- 民事調停
- 少額訴訟
- 通常訴訟
以降でそれぞれの特徴やメリット・デメリットを解説しますが、どの手段が適切かは未払いとなっている報酬の金額やクライアントの状況などによって異なります。
法律や手続きに関する知識や経験が必要になるため、必ず弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
支払督促とは
支払督促とは、書類審査のみで行う迅速な手続です。申立人の申立てに基づいて裁判所書記官が金銭の支払いを求める制度で、相手方からの異議の申立てがなければ判決と同様の法的効力が生じます。
メリット | ・手続きが簡単 ・費用が安い ・迅速に回収できる |
デメリット | ・通常訴訟に移行すると長引く |
支払督促の送達には付郵便送達を使えば、クライアントが不在などにより郵便物を受け取っていなくても、裁判所から発送した時点で相手方に送達されたとみなされ、支払督促が有効に行われます。
また、未払い報酬の消滅時効は5年となっていますが、事項成立前であれば支払督促で時効を更新できることも覚えておきましょう。
参考:政府広報オンライン「「お金を払ってもらえない」とお困りの方へ 簡易裁判所の「支払督促」手続をご存じですか?」
民事調停とは
民事調停とは、裁判所の調停委員会のあっせんにより、話し合いによる解決を図る手続です。調停で合意された内容は判決と同様の法的効力が生じます。
メリット | ・手続きが簡単 ・費用が安い ・合意が成立すれば判決と同じ効力がある |
デメリット | ・合意が成立しなければ効果がない |
民事調停は、調停が成立すれば調停調書が作成され、その内容に従って未払いの報酬を回収することができます。しかし、クライアントが調停に応じない場合や、調停で合意に至らない場合は不成立となり、別の方法を検討する必要があります。
参考:裁判所「ご存じですか? 簡単に手続できます 裁判所の民事調停」
政府広報オンライン「身近な民事トラブルを話合いで解決 「訴訟」に代わる「民事調停」」
少額訴訟とは
少額訴訟とは、原則として1回で審理が終了し直ちに判決が出る訴訟手続です。トラブルの対象となっている金額が60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限り利用できます。
メリット | ・迅速に判決を得ることができる ・弁護士費用をかけずに利用できる |
デメリット | ・金額が60万円以下に限られる |
少額訴訟では、裁判所が認めれば弁護士以外でも代理人になることが可能で、代理人を立てずに自分で訴えることもできます。ただし、金額が60万円を超える場合は、少額訴訟を利用できません。
参考:裁判所「少額訴訟」
民事訴訟とは
通常訴訟とは、判決によって解決を図る手続です。トラブルの対象となっている金額が140万円以下の場合は簡易裁判所に、140万円を超える場合は地方裁判所に訴訟を起こします。裁判官が法廷で双方の言い分を聴いたり、証拠を調べたりして、最終的に判決によって紛争の解決を図ります。
メリット | ・法律的にどちらが正しいかはっきりさせることができる |
デメリット | ・手続きが複雑で長期化する |
民事訴訟では、申し立てに必要な書類が多く、裁判所から審理日程通知書が送付されるまでに時間がかかり、費用も高くなります。
参考:裁判所「民事訴訟」
契約書なしで未払いの報酬を請求できる?
法的手段をとるには、自分の主張や請求の根拠となる証拠が必要です。
契約書は、契約の成立と内容を証明するものとして、回収する際には重要な証拠となります。
ただし契約書がない場合は、メールやSNSでのやりとり、注文書、納品書、請求書など、契約に合意した証拠があれば請求は可能です。
しかし契約書がないと回収に失敗するリスクもあるため、必ず契約書を締結し保管するようにしましょう。
報酬未払いに遭ったらあきらめずに弁護士へ相談を
令和2年5月に発表された内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」によると、クライアントとの間でトラブルが発生した際の回答は、「交渉せず、受け入れた(何もしなかった)」は21.3%、「交渉せず、自分から取引を中止した」は10.0%でした。この調査結果により、フリーランスの約30%は、トラブルに遭遇した際に泣き寝入りしていることが明らかになりました。
また、クライアントと交渉せずにトラブルを受け入れた理由についての回答は、「受け入れないと、今後、取引が打ち切られたり、減らされたりすることとなり、フリーランスの活動に大きな支障を来すため」が41.2%、「受け入れないと、その取引が成立しなくなり、フリーランスの活動に大きな支障を来すため」が27.3%でした。
この調査結果から、フリーランスの置かれている立場はまだ強くないことがわかります。
出典:内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」
フリーランス・トラブル110番とは
令和2年11月、このような弱い立場に置かれやすいフリーランスが、トラブルに遭遇した際に相談できる場所として、「フリーランス・トラブル110番」が設立されました。
第二東京弁護士会が、内閣官房、公正取引委員会、厚生労働省、中小企業庁と連携して運営しているフリーランス向けの弁護士相談窓口です。
相談の対象となるフリーランスは、業務を委託されている事業者で、従業員を使用していない方となります。法人化していても、フリーランスの方以外に役員も従業員もいない場合も適用になります。
あいまいな契約によるトラブルや報酬の未払い、ハラスメントを受けた際に、弁護士である相談員に無料で相談でき、和解あっせん手続きや訴訟・民事調停などの法的支援も受けられます。
これまでに紹介した「法的手段をとる際はどれが適切か?」「契約書がなくても未払いの報酬を請求するには?」といった相談にも、専門家の目線で問題を仕分けして対応してくれるうえ、事案によっては、労働基準監督署、公正取引委員会、中小企業庁といった適切な機関を紹介してくれます。
トラブルに遭遇した際は、泣き寝入りせず相談してみてはいかがでしょうか。
関連記事:フリーランス・トラブル110番とは?厚労省と弁護士会がタッグを組んだ最強相談窓口【弁護士監修】
報酬未払いを防ぐための5つの対策
ここからは、クライアントとの報酬トラブルに関して、フリーランス側が注意すべき点について解説します。フリーランスとして安心して仕事を行うために、以下の5つのポイントを押さえておきましょう。
- クライアントの質を見極める
- 支払いに関して協議し合意しておく
- 仕事は契約書を交わしてから
- 業務上のやりとりは記録に残す
- エージェントサービスを活用する
1.クライアントの質を見極める
発注者の評判や実績、過去の取引履歴などを事前に調べて、信頼できる相手かどうか判断しましょう。また、エージェントサービスや口コミサイトなどをチェックして、他のフリーランスの意見や経験も参考にしましょう。
関連記事:悪質なクライアントを避ける4つの方法。クライアントの「種類」を見分けて対策しよう
2.支払いに関して協議し合意しておく
報酬は業務内容と相場に応じて適正な金額を設定し、クライアントと交渉します。報酬額のほか、支払期限、支払い方法についても明確にしておきましょう。
3.仕事は契約書を交わしてから
電話などにより口頭で依頼を受けて仕事をした場合、契約の成立や内容を記録に残していないと、トラブルになった際に証拠となるものがなく、法的手段をとる場合も不利になってしまいます。
仕事を始める前に必ず契約書を作成し、双方で署名捺印したものを保管しておきましょう。契約書には業務内容や報酬額、支払方法のほか、納期や修正回数、著作権や損害賠償などについても明記することが重要です。
また、先に述べたフリーランス新法の重要なポイントの1つとして、「取引条件の明示義務」が挙げられます。契約は口頭の合意でも成立しますが、業務内容や報酬額、支払期日といった取引条件は、書面またはメールやSNSなどの電磁的方法で明示する必要があると定められます。フリーランスは自身の身も守るためにもぜひ覚えておきましょう。
4.業務上のやりとりは記録に残す
業務の依頼や指示、修正や変更などのやりとりは、メールやチャットなどの電子的な手段で行いましょう。口頭でのやりとりも、必ず文書化することが重要です。記録に残しておくと、トラブルが起こった際に証拠として役立ちます。
5.エージェントサービスを活用する
エージェントサービスを利用すれば、報酬額や支払い方法について適切に設定されるようサポートしてくれるうえ、難しい契約まわりを任せることができます。また、報酬未払いなどによるトラブルが発生した場合も、企業との間にエージェントが入って、適切な対応の仕方などをフォローしてくれるケースもあります。
デザイナーの代表的なエージェントサービス3つ
デザイナーの代表的なエージェントサービスとしては、次の3つがあります。
- クロスデザイナー
- レバテック
- クラウドテック
クロスデザイナーは、Webデザイナーに特化した国内最大級のエージェントサービスです。
【主な特徴】
- 7,000人以上のデザイナーが登録
- 最短即日中に即戦力デザイナーを紹介し、最短3日でアサイン可能
- 稼働日数やスキル条件を採用コンサルタントがヒアリングして紹介
レバテックは、Webデザイナーや広告運用など、Web・ゲーム業界で活躍するフリーランスを紹介するエージェントサービスです。
【主な特徴】
- ITエンジニア・Webデザイナー専門
- スピード対応・参画
クラウドテックは、558万人以上のデザイナーやエンジニアが登録するエージェントサービスです。
【主な特徴】
- ミドル~シニアクラスの経験豊富な層が多数在籍
- 最短3日でアサインが可能
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本記事では、業務委託契約で報酬未払いに遭った場合の対処法と予防策について、具体的な方法やポイントを詳細に解説しました。
業務委託契約で働くフリーランスにとって、報酬未払いは深刻な問題です。収入が減るだけでなく回収に時間や労力を費やすことになり、心身共に消耗します。
万が一報酬トラブルが発生した場合は、可能な限り穏便に早期解決するために、本記事でご紹介した対処法を参考にしてください。
また、報酬未払いを防ぎ、フリーランスとして安心して仕事を行うためには、「クライアントの質を見極める」「支払いに関して協議し合意しておく」「仕事は契約書を交わしてから」「業務上のやりとりは記録に残す」といったポイントを押さえておきましょう。
予防策の1つとしてご紹介した「エージェントサービスの活用」は、報酬未払いへの対処法としても有効です。
フリーランスに代わって契約や請求などの事務処理を行ってくれるうえ、万が一トラブルが発生したときにはエージェントのサポートを受けられるため、安心して仕事に臨むことができます。
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