企業がフリーランス・個人事業主へ業務を委託するときは、業務委託契約書を作成します。業務委託契約には準委任契約と請負契約があり、企業側(委託元)が自由に決めることはできません。
契約形態で適用される規定や条項も異なるため、正しく理解しておかなければトラブルにつながるおそれがあります。
この記事では、準委任契約と請負契約の見分け方について解説します。具体的な事例や注意点もまとめました。フリーランスへ業務委託を考えている企業担当者は、自社の業務にあわせた契約形態を選ぶためにも、本記事を参考になさってください。
業務委託契約の種類と特徴
業務委託契約書は、社内の一部の業務を外部に委託するときに必要な契約書です。
業務委託契約には「準委任契約」「請負契約」の2つの形態があり、それぞれ特徴があります。2つの契約形態について、かんたんに解説します。
準委任契約
準委任契約とは、受託者の労働力によって得られる成果に対して報酬を支払うことを約束する契約形態です。「履行割合型」と「成果完成型」があり、それぞれ報酬の対象が異なります。
履行割合型※1 | 労働力・労働時間 |
成果完成型※2 | 成果物が完成するまでの作業時間 |
※1 民法648条2項
※2 民法648条2第1項
「履行割合型」は業務の遂行状況に応じて報酬を支払うのに対し、「成果報酬型」は成果物を完成するまでの作業時間に対して報酬が発生するのが特徴です。
必ずしも成果物の完成品の納品を必要としていないため、受託者のスキルを活用した業務に向いているといえます。
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請負契約
請負契約とは、成果物を完成させることを目的とした契約です。成果物が完成するまで何時間かかっても、成果物のみに報酬を支払います。
そのため、契約内容によってはどちらかに負担が大きくなる可能性があるため注意が必要です。
また、進捗報告が義務ではないため、完成までどのくらいの時間がかかるの把握しにくいというデメリットもあります。再委託も禁止されてはいないため、許可しない場合には契約書できちんと明示しておかなければなりません。
関連記事:【企業向け】請負契約とは?準委任との違いやメリット・デメリットを解説
請負契約と成果完成型の準委任契約の違い
請負契約と成果完成型の準委任契約は、成果物の納品をもって報酬が支払われます。とてもよく似た内容ですが、成果完成型は請負契約のように業務を完成させる義務はありません。
さらに業務委託契約は準委任契約と請負契約では、受託者側の義務の程度が異なります。企業側はそれぞれの契約形態の違いについて正しく理解しておくことが大切です。
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準委任契約と請負契約の見分け方
準委任か請負かは、業務内容や運用の実態から判断するもので、任意で決められるものではありません。もし都合の良い方法というだけで締結した場合、トラブルの発生や大きなリスクを負うおそれもあります。
適切な業務委託契約を結べるように、準委任契約と請負契約の見分け方を解説します。
1. 報酬の対象
準委任契約は作業時間、請負契約は成果物とそれぞれ報酬の対象が異なります。具体的には、受託者に対して成果物を求めているのかどうかがポイントです。
準委任契約 | 履行割合型 | 作業時間・労働力 |
成果完成型 | 成果物を仕上げるまでの作業時間 | |
請負契約 | 成果物 |
もし、契約後に成果物の仕様に変更があり、作業内容を変えてもらう必要があったとき、請負契約では契約を結びなおす必要があります。
しかし、準委任契約では成果物の完成は問わないため、新たに契約書を作成しなくても対応してもらうことが可能です。
委託する業務が決まっているときは請負契約。不定期に発生するような業務で必要なときに手を貸してほしいなど、柔軟な対応を求めるときは準委任契約を選ぶのがおすすめです。
2. 報酬を支払う時期
準委任契約と請負契約の報酬を支払う時期は以下の通りです。
準委任契約 | 履行割合型 | 委任事務を履行した後 |
成果完成型 | 成果物の引渡し | |
請負契約 |
報酬は受託者の生活にも影響を及ぼす可能性があるため、できるだけ早めに支払うのが望ましいでしょう。
支払いの有無やタイミングでトラブルにならないように、業務委託契約書に支払い時期や支払い条件を記載しておくことが大切です。
企業側はスムーズに対応できるように、成果物の基準や評価を明確に定めておくとよいでしょう。検収ルールも作成して、契約締結前に双方で確認しておくとトラブルも発生しづらくなります。
3. 成果物に対するリスク
準委任契約と請負契約では双方に課せられる義務が異なります。成果物に保証を求められるのは、受託者に「契約不適合責任」がある請負契約のみです。
「準委任契約(成果完成型)」は作業時間・労働力が報酬の対象となるため、基本的には契約不適合責任は適用されません。
その代わり準委任契約では、企業側と受託者の両方に善管注意義務が適用されます。
受託者は、一般的に求められる要求に対して業務を遂行する義務がありますが、企業側は受託者が業務をスムーズに進められるように質問があれば迅速に返信をしたり、資料を提供したりといった対応をとらなければなりません。
双方に課せられる義務を正しく理解したうえで、適切な契約書を作成し締結することが大切です。
4. 契約解除が可能な時期
契約後、何かしらの理由で契約解除をする場合、準委任契約と請負契約の契約解除ルールを理解しておかなければなりません。
契約形態 | 解除の条件 |
準委任契約 | いつでも契約を解除できる |
請負契約 | 成果物が完成するまでの期間 成果物が契約で定めた条件を達成していない場合 |
準委任契約はいつでも契約を解除できますが、一方的な契約解除はトラブルの要因となるため、注意してください。
請負契約では「解除権」をもつのは企業側です。成果物が納品されるまではいつでも契約を解除できます。ただし、この契約解除が受託者に不利益を与えるときは、損害賠償を請求されるリスクがあることを覚えておきましょう。
関連記事:【企業向け】業務委託契約を解除したい場合の手順や注意点を解説
6. 検収に関する条項の有無
検収とは、契約書で定めた規定どおりに成果物が仕上がっているか確認するための工程です。
請負契約で納品された成果物を確認して不備があった場合、規定をクリアするまで修正を依頼できます。いつまでも修正が終わらないことがないように、契約時に修正回数や評価基準を定めておくことが大切です。
準委任契約は契約不適合責任が問われないことから、検収の工程は基本的にありません。
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7. 再委託の可否
再委託は、受託者が受けた業務を別の人材へ委託する方法です。専門人材を活用して品質や制作スピードを上げるためにおこなわれます。
ただし、企業側が再委託された人材と直接やりとりをするわけではなく、すべて受託者をとおすことから、認識齟齬などが発生しトラブルになる可能性があります。
そもそも再委託は準委任契約では認められていません。
請負契約でも情報漏洩のリスクがあるため、再委託を認めるときは事前に許可をとる、マニュアルを遵守してもらうなどのルールを契約書内に記載することが大切です。
準委任契約と請負契約の具体的な事例
準委任契約と請負契約の違いを正しく理解するために、どのような業務内容が該当するのか具体的な例をご紹介します。
準委任契約の事例
企業AがフリーランスのWebデザイナーへ自社サイトのデザイン制作を依頼したときの事例です。
委託業務 | 自社サイトのデザイン制作 |
業務内容 | ・企業側が作成したコンセプトにもとづいてデザインを制作する |
納期 | 作業開始から1か月後に完成させる |
デザインが完成するまで企業側は、定期的に進捗を確認します。制作段階で修正が必要なときは、デザイナーに契約で定めた範囲で修正を依頼することが可能です。
企業側に指揮命令権はないため、あくまで指示にとどめるようにしましょう。デザインに必要なパーツや画像の選定は企業側で実施します。
こうした素材の選定やコーディングまでをデザイナーへ依頼する場合は、その旨を業務内容に記載しなければなりません。
準委任契約では、どうしても業務内で連携や確認が必要になります。しかしどのようなコミュニケーションが適切なのか不安をもつ担当者もいるのではないでしょうか。以下の無料資料では、業務委託で偽装請負にならないコミュニケーションのポイントについて解説しています。
請負契約の事例
出版社Bがフリーランスのイラストレーターへ業務を委託する場合、以下のようになります。
委託業務 | 書籍の挿絵・イラスト |
業務内容 | ・書籍に含まれるすべてのイラスト制作 |
納期 | 制作開始から90日後に出版社Bへ納品 |
成果物は挿絵・イラストであることが明確に書かれています。どのようなイラストを描いてほしいのか依頼できますが、完成するまで進捗確認や指示を出すことはできません。イラストレーターは完成まで責任をもって遂行します。
委託したい業務がどちらに該当するのかわかりにくいときは、ジョブディスクリプションを作成してみましょう。以下の無料テンプレートを活用いただくとスムーズに作成できます。
業務委託をする企業側の注意点
請負契約と思ったのに準委任契約だと判断されるなど、業務委託契約に関する理解不足からトラブルが増えています。業務委託契約書の条項に関する注意点について解説します。
1. 業務範囲を詳細に書く
契約書に業務の詳細が記載されていないと、受託者の思い込みによってトラブルにつながることがあります。そもそも契約書に記載していない業務は対応をお願いできません。成果物の完成を求めない準委任契約でも、業務内容の詳細は必要です。
善管注意義務をもって、どこまで対応すべきなのかを契約書に記載します。これはトラブルが起きたときに責任の所在を明確にするためにも大切なことです。
企業側は管理者として注意義務があるため、適切な監督行為であれば指揮命令には該当しません。
不適切な監督による納期遅延やトラブルは、企業側に不利益をもたらします。
お互いに気持ちよく仕事をするためにも、適切な業務委託契約書を作成しなければなりません。
下記の無料資料では契約書作成の流れについて解説しています。
関連記事:個人事業主との業務委託契約について解説|手順と契約書の作成方法を紹介
2. 損害賠償責任に上限を設けない
業務委託契約書の「損害賠償条項」では以下の3つの事項について、度合いを決めて記載します。
- 損害賠償責任の発生要件
- 損害賠償責任の範囲
- 損害賠償の上限
損害賠償責任の発生要件を受託者の「故意・重過失」のみに限定していると、損害賠償が認められる範囲が狭くなるため、企業側の負担が大きくなることがあります。そのため、下記のような一文を入れておく方法もあります。
<例> |
または、賠償の範囲を広げる場合は以下のような文言が適切です。
<例> |
ただし、このままだと受託者が負うリスクが大きくなるため、損害賠償額の上限について書いておく方法もあります。
<例> |
関連記事:業務委託契約を締結する際に起こりがちなトラブル事例6つと対処法を解説
3. 下請法・フリーランス新法を理解する
資本金が1,000万円以上の企業には下請法が適用されます。下請法が適用された親事業者には以下の義務が課せられます。
- 発注時に3条書面を交付する
- 2カ月以内に報酬を支払うこと
- 取引内容を記載した書類を2年間保存する
- 支払が遅れたら遅延利息を支払う
3条書面とは、下請法第3条で定められた具体的記載事項をすべて記載した書面です。以下の内容をすべて記載して受託者へ交付しなければなりません。
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▲出典:公正取引委員会「親事業者の義務」
2024年中にはフリーランス新法が施行されます。フリーランスへ業務を委託するときも3条書面の作成は義務です。企業は準委任契約と請負契約を正しく理解したうえで、業務委託契約書を作成しなければなりません。
業務委託契約まわりのサポートもクロスデザイナーにおまかせください
業務委託契約には準委任契約と請負契約があります。企業側が契約形態について理解が不足しているとトラブルも起こりやすくなるため注意が必要です。
業務委託契約書を作成する前に、委託する業務が準委任と請負のどちらに該当するのか見分けて、適切な契約を結びましょう。
親事業者として下請法だけではなく、2024年中に施行されるフリーランス新法についても理解しておかなければなりません。もし、業務委託契約について不安があるなら、フリーランスのデザイナー専門のエージェントサービス「クロスデザイナー」へご相談ください。
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