この記事では、ジョブ型雇用を導入するうえで必要不可欠なジョブディスクリプションのメリット・デメリットや記載項目、作成する際の注意点などを解説します。事例も紹介するので、ジョブディスクリプションの作成でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用とは、企業が職務内容やポジション=ジョブを予め設定し、ジョブに対して適した人材を採用・配置・育成する制度です。ジョブ型は欧米で主流の雇用制度で、近年日本企業でも導入が進められています。
一方、これまで日本で主流の雇用制度であったメンバーシップ型は、新卒一括採用中心、報酬は年功、異動は従業員の意向ではなく会社主導で行われている点などが特徴です。また、将来に向けたリ・スキリングが活きるかどうかは人事次第で、従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくいシステムとなっています。
このようなメンバーシップ型の雇用制度により醸成された企業風土の影響を受けて、従業員エンゲージメントも労働市場の流動性も低く、所得が上がらない構造が定着してしまっています。
以下の「従業員エンゲージメントの国際比較」では、欧米諸国のみならず近隣のアジアの国々と比較しても、日本の従業員エンゲージメントが低いことが明らかになっています。
また、以下の内閣官房の資料からは、従来のメンバーシップ型雇用を主とする日本企業と、ジョブ型が一般的な海外企業では、同じ職種でも賃金格差が大きいことがわかります。
(注)2023年1月時点の世界の職種別総現金報酬水準(専門職シニア7−10年目)について、それぞれの国において、全職種合計を100とし、各国ごとに全職種合計と各職種の賃金の比率を示したもの。
(出所)マーサー社資料を基に内閣官房が作成。
出典:内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局「基礎資料(令和5年2月)」
このことから、専門性が高く優秀な人材が日本企業から流出して、海外企業に奪われつつあることが想定されます。その危機的状況を打開するため、雇用制度の見直しが求められており、グローバル企業を中心にジョブ型雇用を導入する企業が増加しているのです。
ジョブディスクリプションとは
ジョブディスクリプションとは、ジョブ型雇用を行う欧米の企業を中心に、主に人材募集に取り入れられていたツールです。職務内容・責任範囲・必要スキル・求める成果などを定義した書類のことで、日本語では「職務記述書」と呼ばれています。
ジョブディスクリプションを作成するメリット・デメリット
ジョブディスクリプションを作成するメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
1.人事評価がスムーズになる 2.採用時のミスマッチが防げる 3.専門性の高い人材を獲得・育成できる | 1.職務内容が限定される 2.業務が属人化するリスクがある |
それぞれ詳しくご説明します。
メリット1.人事評価がスムーズになる
ジョブディスクリプションを基準にして、社員の業績や能力を客観的に評価することができます。これにより、社員の公平感や納得感を高めるとともに、評価制度の信頼性や透明性を向上させることが可能です。
メリット2.採用時のミスマッチが防げる
人材を募集する際は、職務に関する詳細をまとめたジョブディスクリプションを公開することで、応募者に対して仕事内容や求める人物像を具体的に示すことができます。これにより、応募者のモチベーションや適性を高めるとともに、採用時のミスマッチを防ぐことが可能です。
メリット3.専門性の高い人材を獲得・育成できる
ジョブディスクリプションにより各職務の仕事や役割が明確に定義されるため、高い専門性が求められるデザイナーやエンジニアのような特定の職種の採用には特に有効です。
また、ジョブディスクリプションを活用して社員のキャリアパスや育成プランを策定することにより、社員の成長意欲や自己実現感を高めるとともに、組織の人材戦略や競争力の強化につながります。
デメリット1.職務内容が限定される
ジョブディスクリプションで職務範囲を明確にして採用することにより、契約の範囲を超えた業務は原則として行わないという人材も出てくるでしょう。そのため、メンバー間の協力体制が希薄になり、チームの連携が弱くなるリスクがあります。
デメリット2.業務が属人化するリスクがある
ジョブ型雇用の導入とジョブディスクリプションにより、一つの業務に特化した人材が集まると、業務の属人化が進むケースもあります。担当者が1人休むだけで現場の業務がストップしてしまうことも少なくありません。
個人のスキルを重視しつつ、過度に個人に依存せずバランスを取ることが重要です。
デザイナーのジョブディスクリプションに記載すべき6つの項目
デザイナーのジョブディスクリプションに記載すべき項目は、主に以下の6つです。
- ポジション(職名)
- 具体的な職務内容
- 期待される目標
- 職務の予算
- 期待する成果
- 責任や権限の範囲
それぞれ詳しくご説明します。
1.ポジション(職名)
第一に「職種」の名称を記載します。
次に、その職種でどのような「役職」に就くのかを明記します。役職とは、業務を行う際のポジションのことで、企業ごとの人事制度に合わせて決定します。
最後に「職務等級」を記載します。事前にマネジメントを行う管理職と各部門での職種を担当する専門職に分類し、さらに初級や一般などの等級に区分しておきましょう。
2.具体的な職務内容
「職種の概要」で、採用する人材が就く職種を大まかに記載したうえで、「職務内容」でできるだけ具体的に仕事の内容を明記します。書き方は、仕事の重要度と優先度の高い順に箇条書きにすると分かりやすく、採用活動で迷いなく判断できるでしょう。
仕事の内容に優先順位をつける際は、「優先度」「重要度」「頻度」の項目ごとに点数を付け、掛けあわせることで数値化する手法もあります。そのほか企業ごとにルールを作るなど工夫すると良いでしょう。
3.期待される目標
「期待される目標」では、職務を実行するにあたっての目標値を記載します。
目標となる指標は、売上や契約件数、リードの獲得件数のように数値化すると客観性が高まり、管理しやすくなります。
実際に人材を採用する際には、長期的なKGIと短期的なKPIを示すことにより、企業と求職者の間で認識のズレが起こりにくくなり、マッチング精度が高まるでしょう。
4.職務の予算
職務に関連する予算の範囲や管理方法を記載します。例えば、「月間売上目標の達成」や「システムの稼働率の維持」などといった表現を用いて、具体的かつ測定可能な目標を設定します。
5.期待する成果
職務によって生み出される成果や価値を記載します。例えば、「顧客満足度の向上」や「システムの安定性の向上」など、定量的かつ具体的な成果を設定します。
6.責任や権限の範囲
職務の階級や役職、職務内容に応じた責任や権限の範囲を明記します。例えば、「顧客との契約締結に関する最終決定権を持つ」や「システムの変更や更新に関する承認権を持つ」など、できるだけ詳しく記載します。
担当する職務に上司や部下がいる場合は、その役職や人数をあらかじめ記載しておくと、組織の体系や編成が分りやすくなるでしょう。
以下の資料では、ジョブディスクリプションの作成方法をテンプレート付きで解説しています。無料でダウンロードできますので、ジョブ型の採用活動にぜひお役立てください。
ジョブディスクリプションを作成する際の注意点
ジョブディスクリプションを作成する際は、以下のポイントに注意しましょう。
- 現場の従業員と連携して作成する
- 情報を整理して明確に記載する
- 定期的に見直す
それぞれ詳しくご説明します。
1.現場の従業員と連携して作成する
ジョブ型を導入するにあたっては、メンバーシップ型における人事の権限を各部署の管理職に移すことが必要になります。
ジョブディスクリプションの作成も、人事だけで行わず、採用した人物が配属される部署の現場社員やマネージャーなど、現場を知るメンバーの意見を取り入れることが重要です。社内連携が重要となるポジションであれば、配属先だけでなく連携する部署の人もジョブディスクリプションの作成に携わると良いでしょう。
2.情報を整理して明確に記載する
ジョブディスクリプションに記された職務内容と実際の業務に違いがあると、ミスマッチや早期離職につながりかねません。作成時は以下の3点に留意し、情報を整理してわかりやすく記載することが重要です。
- 曖昧な言葉や専門用語を避けて、数字や事例などで補足し、具体的かつ明瞭に記述する。
- ポジティブな言葉や表現を用いて、仕事の意義ややりがい、成果や貢献などを強調する。
- 記載する項目や順序などを整理し、文体や文法、用語や表記などは統一して、文書に一貫性や統一性を持たせる。
3.定期的に見直す
どれだけ優れたジョブディスクリプションを作成しても、会社の状況や人材のニーズの変化
に対応できていないと、結果的にミスマッチとなる可能性があります。そのため定期的にジョブディスクリプションを見直し、採用や評価の際は即時に公開できるように準備しておきましょう。
ジョブディスクリプションの事例
ここで、内閣官房や経済産業省の資料から、大手企業のジョブディスクリプションの具体例をご紹介します。
KDDI
KDDIは事業領域の拡大に伴い、専門性の高い人材の必要性から人事制度の見直しを実施。2020年8月から中途入社社員を対象によりジョブ型を導入しました。さらに2021年4月から新卒に適用を開始し、既存社員にも順次適用して2022年4月には全社員の移行を完了。専門能力と人間力を兼ね備えた人材育成を目的として、KDDIらしさを大切にしながらジョブ型の長所を取り入れた人事制度へとアップデートしました。
「KDDI版ジョブディスクリプション」は、30の専門領域を定め、各領域で求められる職務やスキルを具体化・詳細化したものです。このうち全社共通の「グレード定義書」は、各グレードに求められる役割と人財要件を定義したもので、キャリア形成や評価制度、グレード任用など評価基準の一つの軸になっています。一方、「専門領域定義書」は、グレード定義書をより具体化したもので、実際の職務内容に合わせて求められる役割や能力、専門性の度合いを把握するために活用されています。
日立製作所
ジョブ型雇用は、富士通や資生堂といった日本を代表する大手企業から導入を始めたと言われていますが、日立製作所もそのうちのひとつです。日立製作所のキャリア採用では、以下のようにジョブディスクリプションで具体的に求めるスキルを明示しています。経済産業省「事務局資料(令和4年1月)」
出典:ジョブディスクリプションを活用してフリーランスの採用も
企業と労働者の関係は選び・選ばれる対等な関係へと変化し、キャリアは会社から与えられるものから、労働者が自分の意志でキャリアを構築する時代です。このような時代において欧米ではタイムマネジメントや従業員エンゲージメントを重視した、ジョブ型にとらわれない人材活用法を追求しています。
日本は従来のメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行期ではありますが、急速に転換するのは難しいでしょう。そのため、ジョブ型を順次導入する際は、ファーストステップとして業務委託で取り入れてみることをおすすめします。
フリーランスとの業務委託は仕事ベースで人材をアサインするので、ジョブ型雇用の仕組みに近いものがあります。また、フリーランスはデザイナーやエンジニアなど特定の職種のスキルを活かして働く人が多く、スキルを判断しやすい人材です。そのため、ジョブ型雇用に必要不可欠なジョブディスクリプションは、フリーランスと業務委託契約をする際の採用・評価の指標としての活用もおすすめです。
実際にフリーランスを採用する企業は増加しており、ジョブ型雇用の先駆け的なスタイルとも言えるでしょう。
フリーランスデザイナーを探すならエージェントの活用がおすすめ
フリーランスを採用する主な方法としては、スカウト型サイト、求人広告、リファラル採用などがありますが、デザイナー採用に慣れていない企業はエージェントの活用がおすすめです。エージェントに依頼すれば、企業とデザイナーのニーズをもとにエージェントが介在して取引を進めてくれるため、採用の手間が省けます。業務委託から正社員への移行もスムーズです。
デザイナーを採用するならデザイナー専門エージェントのクロスデザイナーがおすすめ
本記事では、ジョブ型雇用を導入するうえで必要不可欠なジョブディスクリプションのメリット・デメリットや記載項目、作成する際の注意点などを詳細に解説しました。さまざまな企業の事例も紹介しているので、ジョブディスクリプションの作成でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
ジョブ型を順次導入する際は、ファーストステップとして業務委託で取り入れてみることをおすすめします。また、ジョブディスクリプションは、社員採用の代替手段としてフリーランスと業務委託契約をする際の採用・評価の指標としても活用できます。
フリーランスへ依頼する際はエージェントサービスの利用がおすすめです。特に企業がデザイナー採用に慣れていない場合は、デザインの知識やスキル、費用相場について熟知した、実績と信頼のあるデザイナー専門のエージェントサービスに依頼すれば、業界に詳しく安心して任せられるでしょう。
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